天上の海・掌中の星

    “翠の苑の迷宮の” E  〜闇夜に嗤わらう 漆黒の。U
 



          




 ぎりぎりまで内部を見せない格好にして、来訪者たちの興奮を否が応にも盛り上げる作戦か。それとも…ただ単に構造上の問題から致し方なくのことなのか。特別イベントが催されるというその会場、外界からの情報も影響も完全シャットアウトという人工の孤島には、彼らをここまでを運んで来た特別便ごと、島を覆う分厚い緑の横っ腹から突っ込む形での入場となり。ほんの何分もかからずに照明が煌々と灯された、ごくごく普通の規格だろう駅構内へと到着したものの。
「…おおっ。」
 そんなプラットホームから改札へとの案内に従い、すぐ上の階へと上がると様相は一変し。ここまで辿って来たところの…新品清潔だが、同時にいかにも都会的で画一的なデザインの、セラミックタイルの壁だの床だの、アルミポールの手摺りだのというような仕様から。故意の処理だろう少し褪色させたレンガを、波々のウロコ模様に敷いた足元に、壁もまた、胸の高さまでは四角く切り出した白石を積んだような仕立てにしたそのところどころへ、ご丁寧にも蔦を這わせてあって。いかにも古い城塞都市の、分厚い壁に抉られたトンネル状態の隧道を想起させるような趣きの作り。さすがに“駅舎である以上は”という基準があるものか、鬱蒼と暗くは出来なくての照明が灯されてあるが、それよりなお明るい光が待ち受けるその先には、
「あれ見て、あれvv」
 アール・デコとやらを意識したものか、優美な曲線で少々ごてごてと飾られた“門”になっている“改札口”が彼らを待ち受けており。特別イベントということで、関係者以外は通らないという前提の下、味気無い自動改札の機械はもとより、乗って来た交通システムの会社の係員らしい存在も立ってはおらず。その代わり、

  「ようこそ、ケルベロス島へvv」

 それはにこやかな笑顔をした、十数名ものお出迎えスタッフの皆様と、雑誌やらネットメディア関係やらの取材陣だろう、カメラマンだのハンディマイク片手に許可証
パスを首から下げた面々やらが、華やいだ明るさの中で来賓たちを待ち受けている。スタッフたちはそれぞれに、ゲーム上のキャラクターや舞台設定に合わせたものだろう、ヒラヒラきらきらした いかにもなコスプレ…よりかは機能優先なものへと押さえつつも、どこかでファンタジックな要素の濃い装束を身にまとっており、そこがそのままイベント会場のゲートに連なる直行経路なんだということを重々思わせる。
「だよなぁ。いくら日本は宗教にアバウトだって言ったって、神父服の首からインドの神様の飾り鎖を提げるなんてのはなかろうて。」
「え? あれってそうなの?」
 さすが、人間界の様々な知識を一応は浚っておいでの聖封様の呟きへ、ルフィがふ〜んなんて感心したような声を上げ、
「きっと、エスニックなところが無国籍風になっていいかなって思ったんでしょうね。」
 案内役のりぼんお姉様が、一応は仲間内だからということか、ちょっぴり苦し紛れながらもそんなフォローをしたのへは、
「ああいや、全然問題はないですようvv」
 さすが、女性へのフォロー命のサンジさん。そこまでのシニカルな表情を一変させて、満面の笑みで振り返ると、
「揚げ足取りに聞こえたならすみません。だが、あの野郎、りぼんちゃんから庇われるなんて、なんて幸せな奴だろか。」
「まあ…vv」
 見た目は一応、金髪痩躯のスタイリッシュな二枚目だけに、そんな男衆からそぉっとその手を捧げ持たれての、宝石みたいな青い瞳で真っ向から見つめられたりした日には、
「ただでさえ、空気が違ってる空間だしな。」
「そうだよな。」
 どこのバスガイドさんですかというスーツ仕様の“何とか魔法学園”のコスプレをしたお姉様と、そこの臨時教員役ですと言っても通りそうな美貌のお兄さんによる、いきなりの芝居ががったやりとりへ、
「わっvv あれってセネガリ先生じゃない?」
「え〜? でも、女の子の方、サー・ヒムラエル先生のクラスの衣装だよ?」
 知らない人には何のことやらだが、知ってる人はスタッフ顔負けにディープな詳細まで知っている。ここで“第▽回アキバ王選手権”を開催したら、さぞかしヒートアップした展開が拝めように、いや待て、その前に視聴者がついて来られるのだろうかというようなレベルの方々が集まっているらしく、これぞマニアの神髄、オタクって凄い。
(笑)
“でもそれって…。”
 そう、何もアニメじゃゲームじゃっていう二次版権ものの分野に限った話じゃあないのだよ、お客さん。例えば、PCやプログラム関係に関心大きく嵌まっている人の知識も、熱狂的な韓流ドラマファンの知識も、オートバイや四駆のチューンナップにだったら何日だって徹夜出来るぞという人も、そうなの煮物と一口に言ってもね、きせ蓋した方がいい食材と落とし蓋でじんわり煮た方がなんてなことに詳しい人も、それぞれの道での共通用語だの認識だのに一向に通じてない人から見りゃ、アニメおたくと似たよな存在、それぞれの道における卓越した“オタク”なのだ。
“だよなぁ。”
 へへっと笑ったルフィが、何でまたそんなことをば ふと感慨深くも思ったのかと言えば。
「…。」
「? どした?」
 お隣りにちょろりと見上げた大きな肩。こっちからの視線に気づいて、険もないままのすぐさま見下ろしてくれる大好きなお顔へ、
「なぁんでもない♪」
 歌うように応じつつも、胸の中ではわくわくが止まらない。

 「…ねぇ、見て見て、あの人。」
 「あ、ホント。カッコいいvv」

 上背があって精悍で、上っ面だけじゃあなくのよくよく鍛え上げた身体と心とを持ち合わせてて。
「何だろ、何の御用でいるのかな。」
「タレントさんとか?」
「いや、そんな雰囲気じゃないって。」
「スタントとかアクションクラブの人とだか。」
「え? 撮影とかもあるの?」
 目立つその上、落ち着き払っているからこそ、妙に人からの関心引いてる連れへの注目、傍らにいるルフィにまでその余波が降りかかるほどの勢いになりつつあって、
“…うん。やっぱゾロって、カッコいいもんなvv”
 どっしり落ち着いてる重厚さがあるから、こんな場にいるにはちょっと場違いなタイプなのに、飄々としているのが浮ついて見えなくて。
“でもさ。”
 コンビニおにぎりの開け方、いまだに判ってないんだぜ? ケータイの写メとか着信設定も操作出来なくて、プレステのうぃいでは、力み過ぎての危うく、プラズマテレビの画面へあのコントローラを串刺しにするとこだったことも数知れずだしサ。
“うくく♪”
 カッコいいけど、カッコ悪いゾロ。言い触らすことじゃないってのは判ってる。ただサ。誰も知らないことをまで、特別に知ってることが、特別なのに自分たちへは普通だってことが。何て言うの? ゆーえつ感? そんな甘さでお腹の底とかワクワクさせる。大好きなゾロ。そこらの可愛いお姉さんたちに負けないくらい、色んなトコを知ってるんだぞ、俺。カッコいいばっかじゃなくて、可愛いとこもあるの知ってるんだぞって。そんな優越感が嬉しくてしょうがない。
「ゾ〜ロvv」
 見せつけるつもりじゃあないけれど、嬉しさのあまりに跳びはねたくなって。それを誤魔化すついでで、下げてた腕へとしがみつけば、
「何だ、もう腹減ったのか?」
「違わい。」
 きれいな歯並び見せての“い〜だ”ってしても、楽しそうに くつくつ笑うだけで“そうかいそうかい”って言って怒らない。そうこうするうちにも、改札口代わりの“門
(ゲイト)”まで近づいて、自然と列になったその流れが進んで、いよいよ彼らが通過する番となった。
「はい。バッジを確認します。」
 例の、ルフィがデイバッグにつけてたICチップ内蔵のバッジを提示すれば、コンビニのレジにあるようなハンドルをかざして何かしら確認した、頭への“かつぎ”もついた尼さんのカッコをしたお姉さんがニコッと笑い、
「ルフィさんと、ゾロさんですね。ようこそケルベロス島へ。」
 そう言いながら、2冊のパスポートみたいな手帳を渡してくださった。
「これは参加証とマニュアルです。内表紙にセットされているカードを、この先でお配りしているストラップホルダーに入れて、首からとか肩からとか下げててくださいね? あと、中での決まりごとや困ったときのサポートセンターへのアクセス方法などが書いてありますから。こっちの小冊子も失くさないようにして下さい。」
 誰へも同じようにの繰り返し、説明しているお姉さんなんだろうが、こちらの瞳をのぞき込むようにして、にこりと微笑った笑顔はとっても綺麗だったから。
「おう、判った。」
 こっちも絶品笑顔でのお返事。途端に、
「あ…えと…。////////
 おやや? お姉さんが赤くなって、
「こら不届き者が。」
 後から続いてたサンジから、軽くのこつんこと頭をこずかれる。
「え?」
「聖職者たぶらかしてどーすんだ、お前。」
「え??」
 真っ赤っ赤になったお姉さんへにひゃっと笑い、ジャケットの内ポケットから、そっちはスタッフ用なのだろう先に持ってたやっぱりパスポート風の手帳を見せれば、サンジまでのひとくくり、無事にゲートを通過と相成ったものの、

  「??? 何で俺が、たぶ…らかし?っての、したことになんの?」
  「…これだよ。」

 ゾロのあれこれへの優越へ にやけていた坊やでも、我が身に関しては自覚がないから。今の一連のが全く通じてないらしいところが困ったもんだと、サンジが“おいおい”とばかりに肩をすくめる。萌えの対象は何も女子キャラばかりとは限らない。年齢不詳で無邪気でお元気。しかもしかも傍らに、豪と雅と、両極端な偉丈夫・美丈夫引き連れてるとあって、さっきからどんだけ目立っていたかの自覚がないルフィであり、
「俺はこっからお仕事だから。一旦離れっけどよ。お前、この坊主からくれぐれも眸ェ離すなよ?」
「ああ。」
 きゃあカワイイvvと臆面もなく叫べる手合いが、そこここにタムロってる環境なんだ、しかも此処では“ステージ影響力”が加わってるから、日頃構われてる商店街のおばちゃんたちよか、ある意味手ごわいぞ、よしか?と。判りやすいんだか判りにくいんだかな助言を、一応の保護者であるゾロへと授け、
「じゃあ、あとはワタシにお任せ下さいねぇvv」
「あああ、君はそっちなの?」
「はいvv 初日送迎のスタッフですから、ガイダンスも既に終えてますvv」
 このままルフィたちの案内を続けてくださるという、りぼんちゃんとのしばしの別れも十分に惜しんでから、金髪の伊達男さんは“スタッフの方はこちら”という受付のほうへと進んでいってしまった。
「…大丈夫なんかな、サンジ。ここって、りぼんちゃんみたいな可愛い人の見本市なんだぞ?」
「どうだかな。」
 何しに参加してんだかと、ゾロはゾロで別口の不安というか憂慮というかがなくもなかったが、
“まま、自分の身は自分で何とかしてもらおう。”
 こっちへの助力
フォローは最初はなっから当てにしてねぇし、なんて。ちょっと薄情なこと、胸中にて転がしながら。期待に胸膨らませ、もう既に声のオクターブが上がりまくりの皆さんと一緒くた、古代の街の通廊を模した坑道をぞろぞろと進み、わざとにあちこち欠けさせてある石段を上り切ると、そこは……………いわゆる“別天地”であったのだ。







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 *別のお部屋のFTものが2年越しでやっと終止符打てましたので、
  こっちもいい加減、進めなければと、
  やたら握り拳作って、意欲だけは固めております。
  それにつけても何カ月振りなんだか。
  (しかも、イベント会場内はまだ見せてないし…。)